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松村比呂美:作     
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第1話

  こめかみの辺りが締め付けられるように痛む。友紀子はたまらず、その場にうずくまった。
ガラス戸越しにやわらかな陽射しが差し込む広縁は、友紀子がこの家でもっとも好きな場所だ。しかし今は、その陽射しさえ、痛みの元になっている。
後ろから足袋をする音が近づいてきた。
「また頭痛?」
 頭上から聞こえた姑の声は、細くとがっていた。
「頭が痛いと言えば休めるんだから、頭痛持ちは便利でいいわね」
 こめかみを押さえたまま返事もできずにいると、姑は追い打ちをかけるように言った。
「すみません」
 顔を上げ、小さな声で答えるのがやっとだ。吐き気もする。頭痛薬など、とうの昔に効かなくなっている。
「こんなに頻繁に頭が痛くなるなんて、誰かに呪われているんじゃないかしら」
 姑は吐き捨てるように言うと、大広間のほうへ歩いていった。
 今日は舅の十三回忌の法要だ。姑の気が立っているのもわかる。こうしている暇はない。田舎の法要は祭りみたいなものなのだ。親戚縁者が集まり、法要後の会席は、夜中まで続く。
――誰かに呪われているんじゃないかしら――
 姑の言葉が蘇り、どうにかして立とうとしている友紀子の気持ちを萎えさせる。
 確かに呪われているような痛みだ。頭をぐいぐい締め付けられている。「もう勘弁してください」と、呪っている誰かに向かって言いたくなる。
 蔵から出してきた漆の膳を、手伝いに来た近所の人たちが並べているのが見えた。嫁がこんなところでしゃがみ込んでいるわけにはいかない。
 友紀子は、縁側のガラス戸につかまるようにして、のろのろと立ち上がった。
昨夜は、法事の席に不備があってはならないと、あれこれ気にかかり、ほとんど眠ることができなかった。それが、普段に増して頭痛がひどい原因なのだろう。

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